ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された書評

 

Surprised by Opportunity

By WILLIAM EASTERLY
Printed in The Wall Street Journal, page D16 | NOVEMBER 14, 2007

 

原文は >>こちら

日和見主義こそがイノベーションをもたらす

 

大志を抱け。

目標達成のために、ありとあらゆる手を尽くせ。

 

これらの骨太な表現は、卒業式の祝辞や、経営書、政治革命、さらには国連の貧困撲滅運動にまで登場する。『戦略は直観に従う(Strategic Intuition)』の中で、著者ウィリアム・ダガンは簡潔かつ興味深い角度から、人類の偉業の数々を題材に切り込んでいる。「これらの決まり文句は陳腐な響きなだけでなく、大間違いだ」とダガンは述べている。

コロンビア・ビジネス・スクールで戦略論を教えるダガンは、この一般常識をいったん退ける。目標ありきではなく、まずは小さな労力で効果の大きい機会を探し、その中から目星を付けてゴール設定すべきだ、とダガンは説く。これこそが、実際の歴史上、偉大な発明家たちが採った方法であり、ダガンは著作の中で矢継ぎ早に史上の事例を紹介している。

ナポレオンがその事例の中核を占める。ナポレオンはその類希なる戦略をもって、(当時の伝統的な軍事戦略法だった)戦場の布陣を猛攻するのではなく、自軍の強みを活かし敵軍の弱みを突く戦法を採った。同様に、マーチン・ルーサー・キング・ジュニアはモンゴメリー・バス・ボイコット運動を指揮し、全米黒人地位向上協会(National Association for the Advancement of Colored People, NAACP)の戦略を法廷闘争から非暴力主義・不服従に転換し、公民権運動を展開していった。

本書が革新的なのは、既に読者にはお馴染みの事象を組み合わせ、新しい概念に昇華させた点だ。ビル・ゲイツはミニコンピュータ、標準ソフトウェア、高速半導体によって当初成功を収めたが、これらは全て当時ゲイツ以外の人間が開発し、採用していた。ゲイツは当時、ハードウェア販売会社Traf-O-Dataを創業していたが、標準・汎用的なソフトウェアが世界を席巻し、コンピュータはより小型で高速になると考えていた。

『戦略は直観に従う(Strategic Intuition)』から得られる興味深い示唆の一つが、先述の機会追及型のイノベーション・モデルによってビジネス界は発展する一方、政府や国際機構は硬直化した社会福祉政策を追求するという点である。ダガンは単刀直入にこう言う。官僚主義からは、何も創造的なアイディアは生まれない、と。一般市民は社会的に重要な問題解決策を求めている。が故に官僚主義は定められた目的に固執する。ダガンは官僚主義の問題をこのように構造的に解き明かしている。また、ビジネス界の「日和見主義」的な発想を踏襲することで、社会的な発展が実現されることも度々ある、とダガンは指摘している。その最たる例は、マイクロファイナンス(貧困層への無担保融資制度)の祖、ムハマド・ユヌス(グラミン銀行創設者、2006年ノーベル平和賞受賞)だろう。

 

ユヌスはバングラディシュの農村貧困問題に取り組むべく、グリーン革命と呼ばれる井戸採掘や作物改良などに傾倒していくことになる。1970年代、中規模の農業プロジェクトを指揮し、バングラディシュ大統領賞を受賞した。しかしながら、もしユヌスが同じ目標を掲げ続けたならば、彼の名を再び耳にすることはなかっただろう。

 

回想録の中で本人が明かしている通り、ユヌスは「農業プロジェクトの対象外になっていた問題」の存在に気づいていた。グリーン革命は実現したが、そもそも土地を所有しない女性はその恩恵に預かることができなかったのだ。女性たちはわずかながらの収入を得るために手芸品を作り、原材料費を支払い、利息が1日10%という高利貸しの元へ融資返済に通っていた。ユヌスは、より低率の利息で女性に団体少額融資を行う方法を考え付いた。これにより、不動産担保のない女性を相手に高返済率・収益率を実現し、後にマイクロファイナンスを世界規模で展開し、数百万の人々を救うことになる。

援助団体の高官たちは、頑なに旧来の方法に固執した。「ミレニアム開発目標」(the Millennium Development Goals, MDGs)と題したキャンペーンを国連や世界銀行は強力に推進したのだ。世間はこれを「骨折り損のくたびれもうけ」と揶揄した。MDGsは貧困に関するありとあらゆる課題に数値目標を設定したものだ。この方法は資金調達の際には有益だが、問題解決には何ら役に立たない。この事実は、多くの場合において自明の理であり、アフリカでは今なお危機的な貧困問題に喘いでいる。

目標を事前に設定する方法は魅力的であり、たとえそれ以外のより良い方法を知っている人でさえも、抗することは難しい。ビル・ゲイツでさえもマイクロソフトの成功を世界貧困問題に適用できずにいる、とダガンは指摘している。ゲイツ財団は目標事前設定型のアプローチを採用しており、例えばエイズ用ワクチンの普及目標を掲げ、多額の資金を投じている。ゲイツはハーバード大学の2007年卒業式の来賓祝辞の中で、世界貧困に関し言及している。ご想像の通り、「まず目標を明確にし、それに向かってあらゆる手段を尽くせ」と。

もし「日和見的」な柔軟性の有効性を軽視し、目標事前設定型の計画に固執する経営者がいれば、少なくとも「日和見的」なアプローチを排除する市場原理が働くはずだ。ところが実際は、イノベーション溢れる起業家が多数存在する。これが市場の評価だ。旧来型の目標ありきのアプローチはとりわけ公共政策で散見される。なぜならば、国内政策の場合、市場原理は曖昧で、国際援助となればなきに等しいからだ。公共政策の領域こそ、卒業式のスピーカーではなく、より創造性溢れる人材の声に傾聴しなければならない。

イースターリーはニューヨーク大学の経済学教授で、著作には"The White Man's Burden: Why the West's Efforts to Aid the Rest Have Done So Much Ill and So Little Good"がある。